今度は,有向グラフ(各辺に向きが付いているグラフ)の準同型について考えてみよう. 有向グラフの場合の準同型は,辺を向きも込めて保存する写像である. つまり,f:G→Hが準同型とは,Gの頂点集合からHの頂点集合への写像で, Gにu→vいう有向辺があるときに,Hにf(u)→f(v)という有向辺が必ずあるようなもののことである.
2章では完全グラフKnへの準同型が彩色と関連があることを見ているが, ここでは,完全グラフに向きをつけたグラフを考えてみよう. 向き付けとしては,まず頂点に1,2,...,nと番号を振り,小さい方から大きい方へ向き付ける.このようなグラフはトーナメントグラフ Tnと呼ばれている.
このトーナメントグラフには,向きの付け方から明らかなように,有向サイクル(辺の向きに沿って一周してくることができるサイクル)が存在しない.
グラフGから(あるサイズの)トーナメントグラフTnへの準同型fがあったとする.
このとき,もしグラフGに有向サイクルu1→u2→u3→…→ut→u1があったとすると,
f(u1)→f(u2)→f(u3)→…→f(ut)→f(u1)がTn中の有向サイクルになってしまい,矛盾となる.
したがって,グラフGには有向サイクルが存在しない,つまり,非巡回的(acyclic)であることが分かる.
逆に,グラフGが非巡回的であったとする.
このとき,グラフGの各頂点に次のような順番付けを与えることができる.
つまり,次の性質が成り立つことが分かった.
性質: 有向グラフGから(あるサイズの)トーナメントグラフへの準同型が存在することと, Gが非巡回的であることは等価である. |