前章では,Knへの準同型がグラフのn-彩色と等価であることを見た. 今度は別のグラフへの準同型を考えてみよう.
クネーザーグラフKn:kとは,次のようなグラフである.
さて,グラフGからこのクネーザーグラフKn:kへの準同型について考えてみよう.
完全グラフKnへの準同型を彩色に対応させたときと同じように, グラフGの各頂点vに,Kn:kへの準同型fの写す先の頂点のラベルをつけてみる.例えば下の例のようになる.
こうしてできたグラフGのラベル付けは,クネーザーグラフの定義とグラフの準同型の定義を合わせて考えれば,
逆に,グラフGにk重n-彩色が与えられれば,GからKn:kへの準同型fを構成できるということも,(n-彩色の場合と同様)簡単に確認できる. つまり,次のようなことになっている.
性質: グラフGからKn:kへの準同型が存在することは,グラフGがk重n-彩色可能であることと等価である. |
k重彩色という概念は,それ自身でも十分意味のある概念であるが,実は通常の彩色とも深い関連がある.
各kに対して,k重n-彩色可能であるような最小のnをχk(G)とする.このとき, limk→∞ χk(G)/kはある有理数χf(G)に収束することが知られており, これはグラフGの分数彩色数(fractional chromatic number)と呼ばれている. (詳しくは,例えば,E.R.Sheinerman & D.H.Ullman「Fractional Graph Theory」(John Wiley & Sons, 1997)などを参照するとよい.) 分数彩色数χf(G)は一般に通常の彩色数χ(G)以下になる(∵χk(G)は必ずkχ(G)以下になるから.)ことから,彩色数の下界値を与える一つの指標となる.
少しadvancedな話になるが,彩色とk重彩色は次のように説明することもできる.
まず,彩色の方は次のように考えることができる.
一方,例えば,2重彩色を考えてみる. 今度は,例えば,U1,U2,U3,U4,U5の5個を使うと各頂点を2回ずつ被覆することができる.(下図真中参照.) ここで,a,hは3回ずつ被覆されているので,それぞれU3から取り除いて2回ずつになるように調整しておき,ここから彩色を作ってみると,下図の右端のようになる. この場合,1,2,3,4,5の5色で2重彩色になっているので,2重5-彩色になる. 実際,2重彩色数は5になる. さらに,分数彩色数はこの2重のときに既に達成されていて,χf(G)は5/2となっている.
このように彩色とk重彩色を被覆の最小数として見直すと,次のように式で記述することができるようになる. まず,彩色数の方は,次のようになる.
ただし,1はすべての要素が1のベクトル,xはi番目の要素がxiのベクトルのことで,xiは極大独立集合Uiを選んだら1,選ばなかったら0をとるような変数になっている. 例えば上のグラフの例だと,次のように書き下される.
(注:この式の中ではxiは0,1以外の正の整数をとってもよいことになっているが,実際には制約の不等式の左辺が1以上になるようにxiを出来るだけ小さく選ぶ必要があるので,0か1しか選ばれない.)
(証明については,例えば,上の方でも触れているE.R.Sheinerman & D.H.Ullman「Fractional Graph Theory」(John Wiley & Sons, 1997)の1章などを見るとよい.) つまり,分数彩色数というのは,彩色数を定める最適化問題の定式化において,整数条件を緩和したもの,ということになっているのである.