第1回と第2回は2回まとめて1つの話になっていて、それが一段落したあと、 次の新しい話題へ、ということで話題が改まって、 マトロイドと有向マトロイドという概念について紹介するのが第3回の内容でした。
第3回目になぜこの話題を選んだかというと、理由は2つあって、 1つは後の方(第9回)でシェラブルな単体的複体の話を書く予定にしていて、 そこでマトロイドに関連する話を紹介したいためでした。 せっかく連載なので、後でマトロイドに関連するものが出てくるときに、 マトロイドに少し馴染みがあるようにしておこう、という意図です。 もう1つは、有向マトロイドが前回までの主役だった超平面配置と密接に関連するためです。 有向マトロイドの概念を紹介したら、自ずとマトロイドについても一緒に紹介した方が よいだろう、ということです。 このような背景はさておき、この連載は組合せ数学のいろいろな事柄を紹介する、という コンセプトでもあるので、マトロイドと有向マトロイドの紹介をすること自体にも意義が あるかなと思いました。マトロイド/有向マトロイドは離散数学の中で重要ではあるものの、 その方面の研究者以外にはあまり馴染みがなく、 名前は聞いたことがあるけれど、どういうものだろう? という人も多いところと思います。
記事の内容としては、まずマトロイドの独立集合の公理を紹介し、この公理系の気持ちを 少しかみ砕いて説明した後、基底とサーキットによる表現の紹介、双対の概念の存在に触れる ところまでで前半のマトロイドの紹介を終え、 後半はこれに符号の概念を加えた有向マトロイドを紹介し、この有向マトロイドが 超平面配置の組合せ的な構造を記述する道具になる、ということを説明しました。
有向マトロイド(のベクトル、コベクトル、等)は、符号ベクトル({+, -, 0} を要素とするベクトル) の集合で、ある公理系を満たすもの、という形で記述されます。 超平面配置が与えられたとき、各超平面の+側/-側を定めると、空間中の各点に対して、 その点がそれぞれの超平面の+側、-側、もしくは超平面上(=0)のいずれであるかを見ることにより、 符号ベクトルが得られます。こうして得られるすべての符号ベクトルを集めると有向マトロイドの コベクトルの集合になる、というのが、超平面配置と有向マトロイドの関係です。 (下の図では、各超平面(=直線)に付けてある矢印が+側を意味しています。)
この最後の部分の説明につなげるため、マトロイドの具体例としてベクトルの配置における一次独立/ 一次従属性の抽象化、という部分を少し詳しく説明したのですが、一方、 マトロイド/有向マトロイドの具体例としてよく説明されるグラフから生じる例 にいついては、おまけ程度にその存在に触れるくらいになってしまいました。 実は、グラフについての例の説明をマトロイド/有向マトロイドの双方に入れる形で 当初原稿を作成していたのですが、許されるページ数を大幅に超えてしまい、悩んだ末に この部分の記述を減らして収めたのでした。 マトロイドの回と有向マトロイドの回の2回に分ける形で2回分にした方がよい か、というところで悩んだのですが、第2回のときから、この連載の1回分のページ数で 自分の書こうとしている内容を収めることがかなり大変ということを感じ始めていて、 内容に合わせて記述量を増やして行くと、12回では話が終わらなってしまうのではないか、 という危機感もあり、1回分になんとか収めることにしたのでした。
八森正泰