離散数学・組合せ論の醍醐味は,こんなことが成り立つのか,こん な方法で証明できるのか,という驚きであろうか.特に,他の数学 分野に比べ,理論の積み上げを(それほどには)必要とせずに,し かし,あっと思うようなアイディアでいろいろなことが証明される 驚きを体験する場面が数多く,そういう面白さからこの分野に惹か れる人も多いだろう.一方で,そういう入口から入ってみたら,そ の先に大きい理論が広がっていて,その思いがけない深さに魅力が あったりもする.また,情報科学,工学,生物学,社会科学,と様 々な分野の思わぬところに応用があるというような,応用先の広さ もその魅力の一端を担ってもいるだろう.そんな離散数学の魅力の うちのどれか一つの側面にでも触れることのできる本はないかと思 って研究室の本棚をながめていたらこの「離散数学のすすめ」が目 に入った.
本書は,このような離散数学のさまざまな魅力に触れるのにうっ てつけである.内容は,基礎理論編,ゲーム・パズル編,発展理論 編,応用編,と四部に分けられ,それぞれ5,6章ずつさまざまな トピックが紹介されている.全編に渡って各所で紹介されている種 々の問題とその答えを読んでいけば,離散数学の扱う問題の楽しさ を垣間見ることができるだろう.また,例えば5章で扱われている 確率的手法を読めば,こんな証明法があるのか,という驚きを体験 できるだろう.離散数学の奥に広がる種々の理論の深さを体験する のは各章数ページずつの本書のスタイルではなかなか難しいものが あると思うが,しかし,発展理論編の各章からはそれらへの入口や, その様子の一端を覗き見ることができるだろう.応用編の章には, バイオインフォマティクスや複雑系ネットワークといった応用も紹 介されている.しかも,この多岐に渡る各章は,それぞれその分野 で活躍している若手から大御所までの研究者達が執筆しているので ある.
ちょっと残念なことに,それぞれのトピックに割かれるページ数 が足りないという感がやはりあり,各トピックを読み終わるごとに, もうちょっとこの話の続きを読みたいなぁと思ってしまう.しかし, これだけの幅広いトピックを紹介しているのだから,これはしょう がないところだろう.むしろ,もっと続きを読みたい,と読者に思 わせられるのは本書のねらい通りというところかもしれない.それ ぞれの章にはそのトピックに関する参考文献がついており,もっと 続きを読みたいという場合にはこれらの参考文献を探して読んでみ るのもまた楽しみとなるだろう.