このように準同型の存在性を議論する上で,次のような概念がある.
定義: グラフG1とG2に対して,G1→G2とG2→G1の両方の準同型が存在するとき,G1とG2は準同型同値である(homomorphically equivalent)という. |
準同型同値性が名前の通り同値関係になっていることは簡単に確認できる.
例えば,次の2つのグラフは準同型同値である.
準同型同値性が準同型の存在性に役立つのは,次の性質である.
性質: グラフG1とG2が準同型同値であるとき,別のグラフHに対して,
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上の準同型同値なグラフの例をよく観察してみると,あることに気づくだろう. それは,G1もG2も2頂点1辺からなるグラフ(K2)と準同型同値であり,実はK2を介して2つのグラフが準同型同値になっている,とういことである.(そして,K2はG1,G2両者の部分グラフでもある.)
以下,この現象を一般的に説明してみよう.
まず,coreという概念を定義する.
定義: グラフXがcoreグラフであるとは,Xから自分自身への準同型が必ず全単射になることである. また,グラフXの部分グラフYがcoreグラフであり,XからYへの準同型が存在するとき,YはXのcoreである,という. |
例えば,上のグラフの例だと,G1もG2もcoreグラフではないが,K2はcoreグラフである.
そして,K2はG1およびG2のcoreとなっている.
(注:ここでは分かりやすいように「coreグラフ」と「core」と使い分けているが,通常は両方とも「core」と呼ばれる.)
まず,coreグラフが次のような強い性質を持つことが分かる.
補題1: XおよびYがcoreグラフとする.このとき,XとYが準同型同値であれば,XとYは同型である. |
(証明)
準同型f:X→Yとg:Y→Xが存在するとすると,fogおよびgofはそれぞれX→XとY→Yの準同型になる.
XとYはそれぞれcoreグラフであるから,fogとgofは両方とも全射となり,fもgも全射ということになる.
すると,ここから,XとYが同型であることはすぐに出てくる.
(∵ まず,(X,Yの頂点集合が有限集合であることから) f,gが共に全単射であることが分かる.すると,各辺も単射で写ることになるため,f:X→Yに注目するとYの辺数はXの辺数以上になり,g:Y→Xに注目すると,Xの辺数はYの辺数以上いなる.したがって,両者の辺数は等しくなるが,これは,Xの頂点u,vに対して,uvが辺でない場合に必ずf(u)f(v)が辺でないという場合に限る.)
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次に,グラフGのcoreが基本的に一意に定まることを見る.
補題2: 任意のグラフGに対して,Gはcoreを誘導部分グラフとして持ち,また,X1とX2という2つのcoreがある場合は,それらは互いに同型である. |
(証明)
まず,Gの部分グラフでGからの準同型があるものをすべて考えると,(頂点集合の)部分集合の包含関係で極小なものが得られる.(G自身がGからの準同型を持つので,必ず存在する.) すると,それらがcoreである.(もしそれらが全射でない自己準同型を持つと極小性に反する.)
Gからそのcore Xへの準同型fを考えると,fのXへの制限f|XはXからXへの準同型になる. Xはcoreグラフなので,f|Xは同型.f|Xの逆写像をhとすると,fohはGからXへの準同型で,Xへの制限は定値写像となる.しかし,ここでXが誘導部分グラフでないとすると,fohは準同型にならず,矛盾となる.したがって,coreは誘導部分グラフである.
X1とX2がGのcoreとする.f1:G→X1, f2:G→X2を準同型とすると, f1のX2への制限はX2からX1への準同型となり, f2のX1への制限はX1からX2への準同型となる. したがって,上の補題1からX1とX2は同型であることになる. □
この補題2によって,「グラフGのcore」という呼び方で1つのグラフ(の同型類)が特定されることになる. そして,次の定理によって,このcoreが準同型同値性を特徴付けるものであることが分かる.
定理: グラフG1とG2のcoreがそれぞれX1とX2とする.このとき, G1とG2が準同型同値であることと,X1とX2が同型であることは同値. |
(証明)
G1→X1,g:G2→X2それぞれに準同型が存在するので,
X1→G1→G2→X2
X2→G2→G1→X1
という準同型が存在するので,上の補題から,X1とX2は同型.
G1→X1→X2→G2
G2→X2→X1→G1
という準同型が存在するので,G1とG2は準同型同値.