単体的複体Δが性質Pを持たず,Δの頂点集合の真部分集合への制限が すべて性質Pを持つとき,Δを性質Pのobstructionという.単体的複体 の性質としてshellability, partitionability, sequential Cohen-Macaulayness を取り上げ,2次元の場合のobstructionを特定する結果の紹介および, その他の議論を進めたい.
n 変数上の論理式を例題とするあるPSPACE完全問題を(厳密に)解く, O(2-\epsilon)^n 時間アルゴリズムを提案する.NP完全問題である 3-SAT 問題と SAT 問題において,前者には (2-c)^n 時間アルゴリズムが存在する (for some c>0)のに対して,後者には (2-\epsilon)^n(\epsilon>0)時間 アルゴリズムの存在が知られていない.このように,NP困難な問題を厳密に 解くことを考えた場合,明らかな上界 2^n よりも(真に)よい上界を見つけ ること,及び,そのような上界が存在するかどうかを議論することが,1つの 研究分野になっている.本研究では,あるPSPACE完全な問題が, O(2-\epsilon)^n 時間アルゴリズム(for some \epsilon>0)を持つことを示す. また,(多項式時間階層の)\Sigma_2 完全問題が O(2-\epsilon)^n 時間アル ゴリズムを持つこと,及び,\Pi_2 完全問題に O(2-\epsilon)^n 時間アルゴ リズムが存在するかどうかについて議論する.
1968年J. E. Cohen は、生態学の問題と関連して、競争グラフの概念を導入した。 有向グラフ $D$ に対して、その競争グラフ $C(D)$ とは、$D$ と同じ頂点集合を 持ち、異なる2頂点 $x$ と $y$ の間に辺 $xy$ を持つのは、$(x,v)$ と $(y,v)$ が $D$ の有向辺であるようなある頂点 $v$ が存在するときとして、定義される (無向)グラフのことである。 F. S. Roberts は、「どんなグラフ $G$ についても十分多くの孤立点を付け加える ことで、 $G$ はある非巡回有向グラフの競争グラフとなる」ということに着目した。 そのような孤立点の最小の数を、グラフ $G$ の競争数と呼び、$k(G)$ で表す。 一般のグラフに対して、この競争数を求めるのは難しい問題である。 R. J. Opsut はグラフの競争数を求める計算問題はNP困難問題であることを示した。 本発表では、グラフの競争数に関する基本的な定理等をいくつか紹介した後、最近 になって発表者が得た、完全多部グラフの競争数に関する結果について述べたいと 思う。さらに時間があれば、競争数に関する他の話題にもふれたいと思う。
近年の研究で、カオス的性質を持つロジスティック写像を応用した 擬似乱数生成アルゴリズムが提案されている。しかしその一方式には、 不適切なパラメータを選択すると出力が定常的になってしまう危険性が あるという欠点の存在が指摘されている。話者の最近の研究では、 0と1からなる無限列におけるあるパターンの漸近的出現率に関する 組合せ論的解析を通して、ある組合せ数論的予想の成立を仮定した上での この不適切なパラメータの割合の下界を与えた。 本発表ではこの研究結果について紹介する。
単体的複体がshellableであるとは、単体を1つづつうまい具合に足していって 構成することができるかというようなことである。今回の研究では、 任意の deletion が shellable となる単体的複体について議論する。2 次元の 単体的複体で、任意の deletion が shellable なものは、extendably shellable であることを示した。 また、2次元の純な単体的複体で、任意の deletionが shellableであるにも関わらずvertex decomposableでない例を見つけた。 さらに、matroid複体との関係についても議論し、予想を紹介する。 この研究は筑波大の八森正泰氏との共同研究に基づいています。
クイックソートは,期待計算量が Θ(n log n) であるが,入力によっては 最悪で Θ(n^2) の計算量を必要とする.とくに,整列済みの順列を入力した 場合に計算量が大きくなると言われている. 本研究では入力の整列度合いの指標として反転数を用いて,反転数と計算量に ついての関連性を詳細に解析した.最悪計算量,最良計算量,期待計算量に 関して理論的な結果を得た. 本研究は岡本吉央氏 (東工大), 白幡和也氏 (豊橋技科大) との共同研究 である.
本発表は上別府陽氏(筑波大学大学院数理物質科学研究科後期課程)との 共同研究に基づいています。 有限単純グラフGの組み合わせ構造を,Gに付随して定義される単体的複体K(G)の トポロジーを通して調べる研究がいくつか行われています。ここで考えるbox complex B(G)もそのような複体の一つであり,Gの彩色数との関係が調べられています (Matousek-Ziegler)。 一方でB(G)のトポロジーを知ることは一般に難しく, 上の結果にせよ彩色数の評価と して”良い”ものかどうか, 明らかではありません。そこで「一般にB(G)の ホモトピー型、あるいはホモロジー群は, Gのどのような性質を反映しているのか?」 という問題が生じます。 今回の結果はchordal graph Gのbox complex B(G)について、そのホモロジー群をGの 組み合わせ的データから決めることを目標としています。 (1)まずchordal graph Gに対して, B(G)のホモロジー群はtorsion-free であることが示せます。Csorba, Zivaljevicらによって、どんな自由Z_2作用を持つ 単体的複体も, 適当なグラフのbox complexと同じホモトピー型をもつことが示されてい ます。上の結果はchordal graphのbox complexとして実現される単体的複体に対する一つ の制限を与えるものです。 (2)chordal graphは常に極大完全部分グラフによる樹状分解を持ちます。この分解を 用いて、box complexのオイラー標数を記述することができます。この計算を行う過程に おいて,「Gの完全部分グラフがB(G)の非自明なホモロジー類を表すのはいつか?」という 問いにある程度答えることができます。