組合せ数学セミナー
発表内容の概要


5/20(金): 八森正泰 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科)
セル複体のsigningとshellability

Kleinschmidt & Onn (1996) は,partitionabilityの自然な
拡張概念としてsignabilityという概念を定義し,マトロイド
多面体や球面多面体がsignableであることを示している.ま
た,Onn (1997)は,strong signabilityという,recursiveな
定義も導入している.
今回は,このsignabilityという概念がshellabilityとどのよ
うな関係にあるかを議論する.


6/3(金): 松久隆 (茨城高専・自然科学・数学)
Bayesian Belief Communication Leading to a Nash Equilibrium

この発表では、Paul Strokan (St.Persburg State University)氏との
共同研究の一つである、戦略型ゲームにおけるナッシュ均衡解の
形成問題を認識的構造の側面からの研究を取り上げる。
論文の目的は、混合ナッシュ均衡解に収束するベイズ型コミュニケーション-
モデルを提示し、混合ナッシュ均衡解に認知論的意味付けを与えることにある。

今、任意の戦略型ゲームを考える。「状態空間」と呼ぶ有限集合の部分集合を
「事象」という。各プレイヤーは各自の「個人情報」を表現する数学的構造と
して、状態空間上の分割(「個人情報分割」)を持つとする。

また、彼等がゲーム的事象を認識する機構として「p-信念システム」を用いる
とする。即ち、全てのプレイヤーは状態空間上での共通の確率測度を採用し、
プレイヤーが``事象 E を「p-信念構造」により認識する"ということを、
個人情報分割の下での事象 E の条件付確率値が p ( 0 < p < 1)以上
になることを意味することにする。
更に、各プレイヤーは自分以外のプレイヤーの行動を自分の情報分割の下
での条件付確率値として「予想」し、それをp-信念構造により認識するもの
とする。

このとき、n 人のプレイヤー (1, 2, ...., n)間での「ベイズ型情報伝達過程」
を以下のように導入する:最初にプレイヤー1が他のプレイヤーの行動予想値
を隣のプレイヤー 2 に伝える。プレイヤー 2 はこの情報をもとに自分の
情報分割を細分し、この新しい情報分割の下で新たに他のプレイヤーの行動
予測値を修正する。そしてその値を次のプレイヤー 3 に伝達する。これを受け
たプレイヤー 3 は自分の情報分割を細分し、新たに他のプレイヤーの行動予想
修正し、その値を次のプレイヤー 4 に伝達する。最後にプレイヤー n は行動予
想の修正値をプレイヤー 1 に伝達する。このような操作を何回も繰り返し行う
ことで、プレイヤー行動予想の修正により「プレイヤー行動予想に関する
確率過程」が得られる。

以上の設定のもとで、次の結果を得る:

定理:戦略型ゲームにおいて、上記のベイズ型情報伝達過程を考える。
これで得られるプレイヤー行動予想に関する確率過程は必ずこのゲームの
混合ナッシュ均衡解に収束する。

この定理の主張において、次の3点に注意する。
(1) 行動予想の情報の受け取り手であるプレイヤーは、その情報は必ずしも
正確なものではなく、多少の誤差を含んでいるものと考えていること。
(2) 情報伝達を行うプレイヤー達は情報伝達の方向によりグラフを形成するが、
ナッシュ均衡解に収束することと、そのグラフの位相的性質とは無関係である
こと。
(3) ナッシュ均衡形成過程において、ゲームの構造等の共有知識に関する
アプリオリな仮定を設けていないこと。

6/17(金): 佐久間雅 (山形大学 地域教育文化学部)
The Packing Clutter of the Positive Cocircuits of an Oriented Matroid Whose Rank is ≦ 4

有向マトロイドの正(コ)サーキットのクラッターは、有向グラフの
有向サイクルや有向カットのクラッター達を真に含むクラッターの
重要なクラスの一つです。

今回の発表では、ランクが4以下の有向マトロイドの
正コサーキットのクラッターについて、そのPacking Propertyと
Ideal-nessの禁止マイナーによる特徴づけについてお話しします。

なお、この研究は柏原賢二氏(東京大学)との共同研究です。

(当日使われたプロジェクタ用資料:PDFファイル)


7/1(金): 松井泰子 (東海大・理・情報数理)
双協力ゲーム(Bicooperative game)について

協力ゲームにおけるプレイヤーの意思決定は,提携に参加するか否
かの二者択一な場合を扱っている.Bilbao(2000)は,協力ゲームでの
プレイヤーの意思決定を拡張し,提携に参加する,参加しない,どち
らでもないかの三者択一な状況を考える双協力ゲームを提案した.

本発表では,双協力ゲームを紹介し,双協力ゲームにおけるShapley値
(2004)等をLattice上で解説する.

7/28(木) 10:30〜: 江居宏美 (中央大学・理工・情報工学)
Substitutions, Rauzy fractals and tilings

アルファベット A={1,2,3}による自由モノイド上の準同型写像を,
"階数3の記号変換(Substitution)" と呼ぶ.例えば
σ(1)=12,σ(2)=13,σ(3)=1
で定義された3次記号変換σ(この記号変換は,
Rauzy記号変換と呼ばれている)はシンプルだが,
さまざまな産物を生み出す.
今回はその産物のなかで興味深いトピックスを選んで,
以下のパートに分けて話したい.
1)記号変換によって決められるタイル変換
2)タイル変換を用いた,Rauzyフラクタルの構成とタイリング
3)可逆記号変換から生成されるRauzyフラクタルの境界
4)展望

7/28(木) 14:00〜: 足立智子 (東海大学・理・情報数理)
RAIDの数理モデル化と完全二部グラフのラベル付け

RAIDとは,ディスクの読み込み・書き込みを複数のディスクで並列に行うことに
より,処理速度と安全性を高める技術である.
アクセスコストを低減するために,RAIDのinformation diskとcheck diskを完全
グラフの辺と頂点に対応させてinformation disk の順序付けを考察する
cluttered orderingという概念が,Cohen等(2001)によって導入された.
Meller等(2005)は,二次元のRAIDを完全二部グラフに対応させることで,
数理モデル化をおこなった.
今回は,Mueller等の研究をさらに発展させ,完全二部グラフのcluttered
orderingの構成法について報告する.

7/28(木) 16:30〜: 村井聡 (大阪大学・情報科学)
Algebraic shifting and chordal graphs

Algebraic shifting とは単体的複体 K から shifted と呼ばれる
特別な性質を持つ別の単体的複体 Δ(K) を作る作用の事である。
Algebraic shifting は組合せ論的観点から Kalai が考案したものであるが、
代数的には generic initial ideal と呼ばれる概念が対応する事が知られており、
近年代数的なアプローチからいくつかの新たな性質が示されている。

一般に generic initial ideal や algebraic shifting は具体的な計算という面で
は非常に難しいが、代数的に良い性質を持つ対象は扱いやすい。
Chordal graph は補グラフの edge ideal が linear resolution を持つ
という代数的に良い性質を持ち、その algebraic shifting は扱い易い。
本発表では algebraic shifting の紹介とともに、
chordal グラフの algebraic shifting が組合せ論的にどのような形で与えられるか
についてお話します。

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